「ペリリュー」という作品は、太平洋戦争における激戦地の一つ「ペリリュー島」を舞台にした物語。
国語の授業で「ちいちゃんのかげおくり」を学び、学校の図書室で「はだしのゲン」を読み、金曜ロードショーで「火垂るの墓」を見て、修学旅行では広島の平和記念公園を訪れるなど、ぼくは幼少期から戦争には度々触れてきましたが、ある程度の年齢を重ねた現在で「ペリリュー」を読むことができたのは強烈な体験になりました。
あらすじ
日本の南、フィリピンの東に位置するパラオ諸島の「ペリリュー島」で、日本とアメリカが戦う中、少しぼーっとしている主人公の田丸が過酷な環境に苦しみつつ生きていく話。
ペリリューの戦いは、無謀な特攻「バンザイ突撃(英語ではBanzai Attackと揶揄されていた)」を続けていた日本が戦略を変え、「持久に徹する」作戦に変更された転換点であり、アメリカ兵を苦しめ、その後の硫黄島や沖縄の前哨戦となった重要な戦いでした。
この「持久に徹する」作戦により、水・食料・援軍などあらゆるものの補給がないという、地獄以上の環境を田丸たちは生きなければなりませんでした。
戦争という日常
本作は兵士目線で物語が進んでいき、アメリカ兵との戦はもちろんですが、それよりも日々の生活を中心に描かれているため、日本兵が体験した過酷な日常もののマンガでもあるとぼくは考えています。
主人公の田丸を含む日本兵たちは「持久に徹する」作戦により、とにかく1日でも長くペリリュー島で生き続け、アメリカの兵力をフィリピン・日本列島に向けないようにすることが最大の目的であるため、終戦後も気付かずに約3年もの間サバイバル生活をしていきます。
日々の生活といっても、ぼくたちの日常とは死との距離感が全く違うため、想像をはるかに超える過酷さだとは思いますが、そんな環境でも徐々に適応していく姿がほのぼのとした絵柄で描かれています。
この新聞の4コママンガのタッチのような絵柄によって、残虐なシーンはある程度緩和されており読み進めていけるのですが、ほのぼのとした雰囲気から急に戦闘シーンになると、淡々と人が死んでいく姿がリアルに突き刺さり、胸がざわつくこともしばしばです。
日本兵とアメリカ兵の島での生活
1万人対5万人の圧倒的な戦力差に加え、死体の横で仮眠をとる日本兵とベースキャンプで映画を見た後に女性と一緒に寝るアメリカ兵、のようにペリリュー島での生活は、非常に対照的です。
しかしながら、同じ人間として戦争の地獄を味わう様子は等しく描写されています。
また、スティーブン・スピルバーグ、トム・ハンクスによるドラマ「ザ・パシフィック」では、アメリカ兵視点のペリリュー島での地獄が表現されていました。
この作品はガダルカナル島・ペリリュー島・硫黄島・沖縄を転戦する兵士の物語で、10話中ペリリュー島は前編・中編・後編の3話で構成されており、アメリカにとっても重要な戦いであったことが伺えます。
徹底的な取材によって生み出されたフィクション
「ペリリュー」の作者は、書籍や歴史の専門家、生還者からの取材に加え、現地ペリリュー島への取材も行なっており、入念な準備のもと作品が作られています。
本作は史実をもとにしたフィクションですが、ぼくたちが読みやすいよう登場人物の価値観が現代人に寄せた設定になっていて、戦時中の行き過ぎた体育会系的なマインドの持ち主は、あまり出てこないのが特徴です。
主人公の田丸や準主人公の吉敷は、大学生くらいの年齢でありながら戦地に駆り出され、必ず生きて日本に帰るというモチベーションで生活しており、弱音も吐くし、ビビりもする、緊張がほぐれたら性欲の処理もするため、共感できる点は多いです。
ちなみに、作者はフィクションであるということに強いこだわりと持っており、第1話から歴史の信ぴょう性について触れています。
第1話で、空襲に驚き転んで死んでしまった兵隊がいて、亡くなった人の家族に手紙で報告をする「功績係」に任命された田丸が、遺族に手紙を書くシーンがあるのですが、上官から立派に戦って死んだという虚偽の話を書くことを命じられます。
作者はインタビューでも「そもそも信頼性がわからないところに立脚してお話が展開していくんだ、というところから始めないと、むしろ誠実じゃないと思ったんです。」とお話ししており、虚偽の報告をする話から本作がスタートすることによって、戦争の話を紡いでいく本作のスタンスが示された重要な第1話となっています。
戦争もののマンガが苦手な人でも読みやすいのでおすすめ
ぼくは、「ペリリュー」が戦争ものだから購入したわけではなく、1話を試し読みして面白かったから購入しました。個人的に戦争ものの書籍や映像作品は少し苦手でしたが、この作品は非常に面白く、ページをめくる手は止まりません。
絵柄が可愛く読みやすいというのもありますが、難しい戦術や複雑な歴史の考察、反戦の主張などは一切なく、とにかく兵士の日常にフォーカスした作品であるため、共感できる部分は多いです。
等身大の若者を描いているため、作品を通して戦争を追体験している感覚になり、恐怖感も強烈に伝わりますが戦争について考え直す良いきっかけになることでしょう。
読んだことのない方は手に取ってみることをおすすめします。
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